池田信夫氏の奇怪な宇沢弘文氏批判:TPP推進派論説の空疎さ

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[TPPでは生きられない!中野剛志氏のTPP問題追及最新講演]

<TPPでは生きられない! 講師:中野剛志氏 於:明治大学 2月26日>


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通産省から出向している中野剛志・京都大学助教はいち早くTPPの危険性について指摘した専門家である。氏の出演した番組「西部邁ゼミナール」の動画はツイッター上で普及した。私もこの動画を見てただならぬ問題、ある意味今の政局で表面上空騒ぎしているどの問題よりも、緊急かつ日本の国家のあり方の根幹に関わる深刻な問題であると認識し、1月に拙ブログでも取り上げ、大きな反響をいただいた。そして、TPPをイメージだけで推進しようとする財界・マスコミ・政官界が一体どうなっているのだろうと思い、その構造を調べ、「TPP問題追及三部作」として記事にした(この記事の上にあるリンクをご参照いただきたい)。日本の危機がより鮮明に浮かび上がったと思う。中野氏の最新講演を昨日視聴したが、私が書いたことと重なるところが非常に多く、これまでに書いてきたことが的外れなものではないことが確認でき、安心した次第である。今はこの事実をより多くの人に拡散・共有していただくことが何よりの課題であると考えている。

TPPから浮かび上がってきた問題は、むき出しのグローバリズム市場原理主義がもはや国家という単位とは相容れないものとなってきているという現実である。逆にTPP問題を分析していくことで、グローバル市場原理主義・新自由主義の正体を明らかにすることができる。重大な危機に直面しているのであるが、好機とも考えられなくもない。もはや従来の右・左の対立軸というのは現実にはそぐわないものであり、我々が現在政策の軸として議論すべきは、グローバリズム市場原理主義とそれに対抗する思潮に他ならない。私が党派・業種・地域を超えた反TPP国民運動、そしてこれを軸とした政界再編を繰り返し主張しているのはこれがためである。むき出しの新自由主義から庶民の生活を守るための救国戦線を緊急に作るべき事態なのである。

[反TPP陣営に強力な援軍:宇沢弘文東京大学名誉教授]

当初は日本の権力中枢を牛耳る政府・財界・マスコミ・一部政治家の対米従属グループが強力に推進キャンペーンを張り、中野氏や一部論者・ブロガーなどのみが反対の論陣を張っており、多勢に無勢の状況であったが、西部邁氏・内橋克人氏らかつて保守派や左派と目された学者も反対の論陣を張るようになった。TPPに反対する国会議員が超党派議員連盟を形成し、降って沸いたTPP推進の流れに一石を投じた。そして彼らが反TPP国民会議を結成するにあたり、その会長に宇沢弘文・東京大学名誉教授が就いた。宇沢氏はスタンフォード大学助教授、カリフォルニア大学助教授、シカゴ大学教授、東京大学教授等を歴任した世界的にも名の知れた日本を代表する近代経済学者である。大手マスコミがTPP推進キャンペーンを張る中、宇沢氏は、保守色の強いと思われる『農業協同組合新聞』(2月14日及び24日付)や共産党の機関紙『しんぶん赤旗』(2月23日付)にも論説を寄稿し(同記事はこちらで読むことができる)、TPPの危険性を指摘し、警鐘を鳴らしている。

[TPP推進派論説の空疎さ 例(1):時事通信のイメージキャンペーン]

TPPに関する記事を検索していると、推進派の記事やキャンペーンばかりが目に付く。反対論は内容豊富できっちりと論理的・実証的に検証し、説得力があるのに対し、推進派の主張やキャンペーンは内容が空疎であり、反対論への反論も荒唐無稽なものである場合が多い。これまでにそうしたものを見つける度にツイッターでは紹介してきたが、ブログでわざわざそうした荒唐無稽の論説をあげつらって批判するのも馬鹿馬鹿しいものに思われ、控えていた。ただこうした俗論が社会的に影響力を有するとすれば危険であるとも考え、ツイッター・フォロワーの方の説得に応じて、乗り気はしないのだが反論を加えておくことにした。

まずはマスコミによるTPP推進キャンペーンの一環と思われる時事通信の記事「【図解・行政】TPP参加で暮らしはどうなる?父と娘の会話」(2011年11月9日付)を取り上げてみる。家電メーカーに勤める父と看護師志望の娘がTPPについて話すという設定である。

まず記事に掲げられた絵をご覧いただきたい。日本と参加予定国であろう国々との間に大きく双方向の矢印(←→)が付けられており、あたかもTPP参加によって双方で貿易が拡大するかのように描かれているのであるが、そこに書いてある絵を見れば、コメ・麦・牛肉・チーズなど食料品が入ってくるものとして描かれ、日本から出て行くものはテレビのみとなっている。

そしてこの図の下の書かれている会話を読むと、牛丼を引き合いに出し、TPPによって輸入品が安くなるということが強調されていることがわかる。そして「コメは例外になるかも」「話し合い次第では10年後」などという恐らくありえないことが書かれている。人・モノ・サービスに関して例外なき関税撤廃を目指すTPPにおいて、日本1国の都合だけでコメが例外品に指定される可能性は著しく低い。ブルネイの酒類に関しては宗教上の理由であるからこそ例外になるのである。

また「TPPに入れば父さんの会社のテレビが外国でたくさん売れて、給料が上がるかも」と、これもまた全く現実にそぐわない幻想が書かれている。中野氏の話では製造業は輸出を伸ばせず、現地生産をすることになる。あるいは移民労働者が流入し、この話に出てくる「お父さん」もその職種によっては、給料が上がるどころか、逆に仕事を失うことになりかねない。百歩譲って仮にテレビの売上げが増加したとしても、給料が上がることはないということは、近年の企業の業績回復時に株主への配当や内部留保が増える一方、人件費が伸びなかったことが既に証明している(拙ブログTPP関連の記事で日銀のワーキングペーパーを基に指摘した)。

「娘」が看護師志望という設定で「お父さん」が注意を促すという設定であるが、これも注意を要する。看護師に関してはフィリピン・インドネシアと日本との二国間協定で受け入れが開始されたものの、言語の壁などでうまく機能していないのが実態である。よって「まだ大丈夫」との安心感が国民にはあると思う。それにかこつけてわざわざ「看護師志望」という設定にしたのではなかろうかと勘ぐりたくなる。TPPにおいては人・サービスもモノと同様例外なく障壁を撤廃することを目指すのであるから、看護師以外の職種においても、安い労働力として流入する移民労働者と同じレベルでの競争が強いられることを意味している。一部企業の間で英語を社内公用語にするという動きがあるのは、TPP参加を睨んでの戦略ではなかろうか。

また安い輸入品が流入することで更なる悪化が予想されるデフレに関しては、ここでは全く言及されていない。

[TPP推進派論説の空疎さ 例(2):池田信夫氏の奇怪な宇沢弘文氏批判]

池田信夫氏による「宇沢弘文氏の奇怪な農本主義」(2月26日)という記事を見つけた。宇沢弘文氏が『農業協同組合新聞』(2月14日及び24日付)に寄稿した論説を批判しているのであるが、その批判は全く的外れなもので驚かされた。読みようによっては悪質な誘導か中傷、レッテル貼りの類ともとれないこともない。池田氏がどのような人物であるのかよく知らないし、関心もないのであるが、こうした俗論が一定の影響力を有するのだとすれば看過できない問題であるとも思い、とりあえずこの論説の問題点を指摘しておくことにした。まずは両氏の論説をお読みいただければ幸いである。

池田氏は記事の冒頭で、宇沢氏が反TPP国民会議会長に就任したことに驚きを表明し、宇沢氏が「90年代以降は極端な農業保護主義を主張するようになった」としてTPPに反対する宇沢氏を批判している。そして宇沢氏論説の「安政の開国」の下りを引用した上で、以下のように主張している。

<引用開始>—————-

驚いたことに、彼は明治維新による開国を否定するのだ。普通の人はこのへんでついていけないと思うが、彼はさらに戦後の「パックス・アメリカーナ」も全面的に否定し、実態の不明な「新自由主義」や「市場原理主義」を繰り返し攻撃する。他方、「農の営みは人類の歴史とともに古い」として、その保護を主張する。彼は資本主義を全面的に否定し、鎖国と農耕社会に戻れと主張しているのだ。

<引用終わり>————–

「安政の開国」について拙ブログのTPP問題追及記事で私が述べた箇所を少し長くなるが引用する。これは中野剛志氏が指摘しておられる「幕末の開国」の中身についてさらに私が解説を加えたもので、宇沢氏もこの文脈に沿って新聞に寄稿した論説において「開国」について述べていることは明白である。

<引用開始>—————-

中野氏も指摘しておられることであるが、幕末の「開国」とは一体何だったのか。菅氏は歴史や先人の苦労を全く理解していないか、あるいはかなりの皮肉屋のどちらかだと思う。「開国」とは米国がペリー艦隊を送り込み、江戸幕府を脅迫して実現したものである。当事は世界の殆どの地域が欧米列強の植民地であるか植民地化が進められていた。アジアの大国であった清もアヘン戦争で敗れた。江戸幕府はその世界情勢を理解しており、欧米列強の脅しに泣く泣く「開国」を受け入れ、治外法権の受け入れと関税自主権の放棄という内容の不平等条約である安政五カ国条約を1859年に締結させられたのである。治外法権は1894年に日英通商航海条約調印でようやく撤廃されたが、関税自主権回復への道のりは困難を極めた。日清・日露戦争に勝利した後、1911年の日米通商航海条約によってやっと日本は米国との関税自主権を手にいれ、他国との条約改正に至ったのである。不平等条約を締結させられてから実に半世紀もの間、先人は苦労をしてきたのである。菅氏の言う「平成の開国」とは米国による脅迫で関税自主権を放棄した安政の不平等条約締結の現代版のことを意味しているのであれば、的を射た表現であると言える。

<引用終わり>————–

宇沢氏がわざわざ「安政の開国」と表記しているものを、池田氏は「明治維新による開国」と言い換えて、宇沢氏はそれを否定していると主張しているのである。続けて池田氏は「普通の人はこのへんでついていけないと思うが」と書いている。池田氏の主張する「普通の人」とはどのような人のことを指すのかわからないが、私はここを読んだ瞬間、池田氏に「ついていけない」と感じた。中野氏も宇沢氏も「幕末の開国」を意味しているのであり、「明治維新による文明開化・富国強兵」といったものについて否定しているのではないことは明らかである。

池田氏の書き換えが意図的でない場合は、池田氏の歴史の知識や理解の浅さを露呈していることになる。しかし、もしこの書き換えが意図的である場合は、「明治維新による開国」とわざと表記することで「開国」という言葉に肯定的なイメージを持たせた上で、「それを否定するとは何事だ」というように読者を誘導するためであると考えられる。この場合は悪質であると思う。

そして池田氏の主張にある「(宇沢氏は)資本主義を全面的に否定し、鎖国と農耕社会に戻れと主張しているのだ」に至っては、決め付けも甚だしく極めて極端な解釈である。中野氏も指摘している通り、完全なる「開国」と完全なる「鎖国」の間には多様なバリエーションがあるのであり、「開国」に反対であるのなら即「鎖国」論者というのは、非現実的で、単なるレッテル貼りに等しいと思う。

その後池田氏は宇沢氏の論説を「農本主義」であると断定し、宇沢論説の内容とは関係のない執拗な農協批判を展開している。宇沢氏は「農業」の大切さを強調しているが、「農協」の大切さを強調しているわけでないことは氏の論説を読めば明らかである。ところが、なぜか池田氏の論説には唐突に「農協」が出現し、さらには「今回の「国民会議」に集まっているのも、農業利権を食い物にする民主党の農水族議員である」と決め付けている。TPP反対の思想的背景には反グローバリズム市場原理主義があるということは宇沢論説にも他のTPP反対論者の主張にもはっきりと現れているにもかかわらず、その最も肝要な部分に関して池田氏は論じることなく、TPP反対派を単に「農業利権」に固執する「抵抗勢力」であるかのように意図的に描いて、この問題をそこに矮小化しようとしているように私には感じられた。

そして挙句の果てに論説の最後において、宇沢氏は幼児退行しているなどと決め付けている。全体として池田氏の論説は主観的・感情的な断定に満ちており、宇沢氏への論理的・具体的な反論とはなっておらず、単なるレッテル貼りや中傷のような印象を私は受けた。

TPP推進派は姑息なイメージ・キャンペーンを推進するのではなく、反対論者の指摘した問題点に論理的・実証的に反論すべきである。我が国のあり方を大きく左右するこのような問題に関して、大手新聞・テレビなどはどうして賛成・反対双方から有力論者による討論会を開くといったことをしないのか。TPPによる危機そのものに加え、日本の言説も同時に重大な危機にあると思う。

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