ウォルフレン教授の日本人へのメッセージ: 米国の変質と日米関係について(最新講演より)

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カレル・ヴァン・ウォルフレン氏(アムステル大学教授)が日本記者クラブの招きで11月17日に行った氏の新著『アメリカとともに沈みゆく自由世界』(井上実訳、徳間書店)の出版記念講演をYouTubeで見た。1時間40分にわたるもので、日本語通訳がついているのでぜひご覧いただきたい。動画リンク

以下は私の要約である。前半が基調講演で、後半が質疑応答となっている。全部を書き下ろしているのではなく、あくまで要約であるので、全編を見たい方は動画を見ていただきたい。下記要約で私が重要と思った点を太字にした。講演の要約の後に私の視点を書いているので、ご一読いただけたら幸いである。

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<基調講演>

[制御のきかなくなった米国のシステム]

私は残念な話をしなければならない。ブッシュ時代に明らかに米国は悪い方向に向かった。変化を求めた国民はオバマ大統領に期待した。2008年ごろには米国には危機感が覆い、大きな変化を受け入れる用意があるかのように思われた。しかし期待したような大きな変化は起こらず、チャンスは失われてしまったということが2009年にかけて明らかとなってきた。ブッシュ政権が招いた数々の現象を米国はもはや変えようとはしないのだということを世界は学んだ。つまり世界が期待するような秩序を作る力としての米国ではなく、却って混乱を作り出す力としての米国が存在するということを我々は学んだのである。もちろん米国民も大統領自身もこのような状況を望んでいたわけではない。それは米国の制度機構が制御不能に陥り、国全体が結果として制御不能となったためなのである。これは政府が関東軍を制御しえなった1930年代の日本にたとえることができる。アイゼンハワー大統領は離任演説で軍産複合体の肥大化と民主主義の危機について述べ警鐘を鳴らしたが、彼が予期したよりもずっと軍産複合体は成長を続けた。同じことが米国の金融産業についても言える。もはや政治的に制御が不能となっているのである。オバマ大統領は今さら何をしても遅すぎるといわざるを得ない状況である。

[日米関係への影響について]

日米関係は極めて特殊な関係である。この関係は、何十年にもたって日本の官僚・産業界・政府が防衛や戦略の問題に煩わされることなく産業発展に集中でき、世界第2位の経済大国となることができたという日本にとって好都合なものであった。この従来は快適であった関係はここ数年日本にとって負債を負う形のものになってきていると考えていたが、2009年になってまさにこれが如実に現れてきたといえる。今こそ目を見開いてこの現実を認識しなければならない

例えば民主党政権が誕生してから最初の半年の米国の反応を見ればわかる。オバマ大統領は日本を重要な価値ある同盟国であるとは見做していないし、関心もない。50年に及ぶ自民党政権の後誕生した世界で2番目の経済大国の新首相と数時間に渡り話すのは当然だと考えられた。しかし、鳩山首相は3回ほど日米首脳会談を求めたにもかかわらず、米国は正式な外交経路すら通さず、スポークスマンが「日本の総理が日本の国内問題を解決するのに米国大統領を利用してはならない」と述べて断るという外交上極めて非礼な対応を行った。コペンハーゲンでの晩餐会で鳩山首相とヒラリー・クリントン国務長官が話す機会があったが、記者に沖縄問題についてヒラリー長官と議論をしたかと尋ねられた鳩山首相は「前向きな話ができた」と政治家のよく使う言い回しで述べたが、ヒラリー長官は米国帰国後駐米日本大使を呼びつけ「鳩山首相はウソをついた。前向きでもなんでもない」と苦情を述べたという。この米側の対応は敵国に対しても用いないほど非礼極まりないものである。オーストラリアの日本研究者ケビン・マコーミック氏も米国がここまで手荒い対応を日本にしたことはなかったし、敵国を含めた他の国に対してもそうだと指摘している。ゲーツ国防長官が来日した際も従来行われていた防衛大臣との晩餐会出席を断り、閲兵も断ったが、これも外交儀礼上非礼な対応である。あたかもどこまでやれば日本人は怒り出すのか米国は試そうとしているのかのようである。

民主党政権が誕生した際に新たに起こった議論、日米安保を再検討することやより対等な関係にするといったことが要因として考えられる。それまでも多くの人が議論していたことである。それまでは中国が懸念材料であったものの、日本がこれから懸念材料となるのではないかという論評が国務省から米国メディアに流す論調にでてきた。20年前は国務省の官僚は日米関係を積極的なものにしていこうとする知日派が主導権を発揮していたものの、現在国務省で対日政策を担当しているのは殆ど国防総省の人脈で、三次元的世界観を持たず、制御のきかなくなった軍産複合体の軍国主義的見地しかないような視野の狭い人たちなのである。米国政府高官たちもこのような軍国主義的官僚たちに席巻されており、その日本観も彼らの目から見たものでしかない。米国の官僚は彼らが何をしようとも日本のマスコミは抗議しないだろう、米国は日本を防衛してくれているのだから外交はワシントンを満足させるようにしなければいけないと日本のマスコミは思っているという前提に立っている。

東京財団とCenter for New American Security (CNAS)の共同声明というものを昨日インターネットで見つけたのだが、このCNASというシンクタンクは私の本で書いている。CNASはアフガニスタンの戦争を拡大することやイラクに大量派兵駐留することの正当性を訴えている組織である。このシンクタンクは共和党や民主党の議員も入った「超党派組織」という看板を掲げているが、その資金源は兵器会社、ボーイング、ロッキード・マーティン、ジェネラル・ダイナミクス、そしてペンタゴンが仕事を発注している、チェイニーのハリバートンから派生したKBRなどで、ワシントンの日本担当主席カート・キャンベルが設立者である。リベラルな秩序に関する共同声明となっているが、米側の背景を見ると軍国主義者であって、自由主義に興味などない人たちの集まりである。

日本のエリートたちは渡米して要人に会おうとする際、ブッシュ政権で重要な役割を果たしたネオコン保守派のリチャード・アーミテージを日米関係の要人として経由するのだが、日本人は自分が一体誰を相手にしているのか本当に理解しているのだろうか? 特にマスコミがこのことを理解するのは重要である。相手と話すときに相手のバックグラウンドを把握した上で話をしているのか? マスコミの皆さんにはぜひこのことを肝に銘じておいていただきたい。このような人たちは日本の友人ではないし、日本のことに関心など全くない人たちなのである。彼らは日本を独立国として扱うなどということもしないし、日本のためにベストになることや地域のためにベストになるために日本がどういう役割を果たすべきかなどということに関心もない人たちなのである。

(ここで基調講演が終わる。司会の読売記者が、「日本では日米同盟の重要性が再認識されてきている」とコメント。さらに1ヶ月ほど前に記者クラブがアーミテージ氏を招いて講演会を開き、場内が満員になったと述べた。このあと質疑応答に移る。)

<質疑応答>

[沖縄基地問題について]

オバマ大統領はこの問題について何も考えておらず、ペンタゴン系の人に丸投げしたのではないか。ラムズフェルトに押し付けられたもので、当事の日本の官僚や自民党は何もしないという最も賢明な選択をした。民主党政権が誕生した瞬間、この難問を民主党政権に一気に負わせることをした。東京は沖縄の状況、ムードを殆ど理解していない。もし、当事あの計画が行われたとしたら、沖縄は爆発し、どの政権も持たない、よって菅直人も持たないであろうから、彼もこの計画について何も行わないであろう。

私が日本の弁護士なら在沖縄海兵隊は日米安保条約に違反しているという論陣を張るだろう。海兵隊は日本の防衛の為に駐留すると取り決められているにもかかわらず、全くその目的のために駐留しているのではないからだ。全くである。これは防衛の為に存在しているのではなく、イラクやアフガニスタン、将来的にはその他アジアで起こりうる紛争での攻撃、あるいは中国を米軍基地で包囲するといった目的の為に海兵隊基地は存在しているのである。つまり日米安全保障条約でうたっているような目的とは全く異なる目的の為に存在しているといえる。情勢の変化に応じてちょっとは拡大解釈をしてもよいではないかという議論もあろう。米国が多くの脅威にさらされているという議論もあるだろう。日本も信頼に足りない脅威となる国に囲まれているという議論もあるだろう。しかし、もしこのことがこれまでの中で最も重要であるというのであれば、もしそんな事態があるのだと仮定すれば、私の論じてきたことは全て間違いといってよい。しかし、所謂「脅威」と呼ばれているものは、あらゆる比較を超えて過大に誇張されたものである。紛争や戦争を必要とする国というもの自体が目的なのである。さもないと軍国主義に対して莫大な資金が入ってこなくなるからである。これから強大化する中国ということを言うのであれば、万人にとって、日中の将来にとって、良いことは安定的な相互互恵関係を築いていくことである。しかし、日本が米国の奴隷のごとく米国からの指令を実行するという状態である限りは、中国は日本をまともな相手として取り扱わないだろう今まで自然の摂理のように当然のことと思っていたことを改めて考え直さなければいけない状況が到来したのだということを申し上げておきたい。

[どのように日本人は日米関係を打開すべきか]

前原とクリントンの会見を見れば、日米は対等でないことは明らかで、クリントンは前原を子供扱いしている。あの会談で印象付けるものはなかった。日米安保は日本の領土問題に役立ってはいない。冷戦下では別であるが、米国が唯一の超大国となった今は事情が別である。米国の少人数の対日政策委員たちは有権者や大統領でさえ制御できない、誰も制御できない制度のために仕事をしている。この勢力は自己保存のためだけに仕事をしており、日本を含め誰の役に立つものでもない。では何をすれば突破口が開けるのか。みなさんがとにかくこの問題について話し、書くことである。そうすることで多くの人が目覚めることになるだろう。60-70年代の日本人はよく平和問題について議論していた。この当事の感情を思い出し、ワシントンに対して、どうして世界を無茶苦茶にするのだ、と意見をしっかり述べることが必要である

[アメリカ大統領選について]

共和党が他によい候補者を見つけられなければ、オバマにも再選のチャンスはあるのではないか。

[中国の台頭について]

日中両国、世界にとってよいのは安定的に相互互恵と理解の関係を作ることである。中国の目覚しい経済発展に関するパニックに陥るような数字は重視していない。日本の戦後の高度成長もこれに比べうるものである。中国が巨大であるからとの理由で恐れる必要はない。中国が欲しくても手に入れられない先進技術は日本にある。中国は下請工場のような存在である。中国の軍事についても心配していない。それはワシントンが日本人に中国への恐怖心と嫌悪感を植え付け、怖がらせようとしているのである

[ウォルフレン氏の推薦図書・著者]

もっと皆さんには本を読んでいただきたい。米国では米国の状況に衝撃を受けた人々が本を書いている。そのうちの何冊か推薦する。軍産複合体につい て”House of War” James Carroll, 米軍事主義台頭についてAndrew Bacevichの本。コントロールのきかなくなった米国経済について:ガルブレイスの息子のJames Galbraithの本、過去8-10年にわたる米国についての考察:ニューヨークタイムスの戦争特派員をだったChris Hedgesの本。

(講演終わり)

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Nicoの視点

学生のとき、ウォルフレン氏の『日本/権力構造の謎』を読んだ。電通の支配にまで切り込んだ氏の分析はとても新鮮だった。当事の日本の政治学者の本でここまで切り込んだ本はなかったと思う。ウォルフレン氏の新著をもちろん読んでいないのだが、人脈を精緻に洗い出していくことで組織の性格・構造を浮かび上がらせるという政治社会学的手法を新著において米国の分析に応用したのだと思う。

従来は日本の対米従属関係というものは陰謀論によって語られることが多かった。これは情報源が定かでないことが多く、検証不能つまり立証不能であることが多い。いくら話に整合性はあっても、頭の中の妄想ではないかといわれるとおしまいになってしまうのである。ウォルフレン氏はそれをアカデミズムの側から政治社会学的に分析を行っているという点で極めて画期的である。もはや日本の対米従属というものは学術的な研究の対象となっているのである。

私は動画を見て、氏が誠実な語り口で友人としての日本人の理性に向かって語りかけているように感じた。講演内容を見ればわかる通り、氏はこのようにしろと日本人に言うのではなく、戦争屋に対日外交を乗っ取られもはや変革ができない米国に隷属することの危険性を指摘し、その人たちは日本人の味方ではないことを訴える。早い話が、「もうこの人たちとは手を切りなさい。もう昔とは事情が違うのですよ。皆さんが今まで信じていた米国はもはや過去の幻想にすぎないのですよ。皆さんが米国人脈だと思っている人たちはとんでもない戦争屋の人たちですよ。このままだとひどい目に遭いますよ」と諭して、日本の米国からの独立を後押ししているのである。

文脈からはネオコンへの嫌悪感が溢れているが、ウォルフレン氏は『日本/権力構造の謎』で中曽根康弘元首相を高く評価していることからもわかるとおり左派の学者ではない。以前このブログで紹介したピエール・フランソワ・スイリ氏の論説でもネオコンへの嫌悪感が示されていた。日本ではまだネオコンの評価は高いのかも知れないが、欧州の研究者から見ればこれは不思議なことに違いない。私自身も同様に理解に苦しむ。私の知る欧州のインテリ層や一般人の間でも米国ネオコンに関して好意的な意見を聞いたことがない。もっと踏み込んで言ってしまえば、ネオコンは話すのも汚らわしい忌み嫌うべき対象、あるいは嘲笑を交えた冗談の対象として扱われているのが現実だ。このことに留意してウォルフレン氏のネオコンを語る口調を動画で確認いただきたいと思う。日本の学界の現状について私は知らないが、もし未だにそうなのだとすると、日本の学者は欧州に行っても向こうの学者とまともに話もできない状態になっている可能性があると思う。日本の学界もガラパゴス化しているのかも知れない(ネオコンに言わせれば、欧州がガラパゴス化しているのか)。 本来なら日本の学者・知識人がしなければいけないことを、大した才能も知識も無い私が無給で代行しているのに等しい。

ウォルフレン氏は日本のエリートがアーミテージ氏に会いに行くことに警鐘を鳴らす。日本で長年記者をしていたウォルフレン氏は、日本のマスコミが、ネオコンの筆頭格アーミテージというオバマ政権と実は何の関係もない人物をいまだに米国政府要人のように取り扱って有難がっていることを百も承知で、この記者クラブといういわば敵地で敢えてこのことを述べているに違いない。さらに深読みすれば、氏は日本人に向かって、「アーミテージ氏やその人脈に会いに行くような人物には気をつけなさい。このような人たちは日本のことを本当に考えているのではないですよ」と良心的に教えてくれているのに等しい。そしてデリケートな言い回しで日本のマスコミを批判し、改心するように訴えているように見える。

アーミテージ氏について述べておくと、前原氏が例の尖閣問題を大きくした直後に見事なタイミングで来日し、思いやり予算増額を迫ったことが想起される。アーミテージ氏はブッシュ政権時の人であり、オバマ政権とは関係ないにもかかわらずである。そしてマスコミ各社はこのことをあたかもオバマ政権の政府要人が来日し、増額を要求したかのような印象を与える報道を尖閣問題が大きくなるさなかで行った。「日米安保の重要性が再確認された」などという主張が喧伝されたのもちょうどこれとシンクロしている。基調講演が終わったあとに読売の司会者が、以前記者クラブがアーミテージ氏を招いて講演会をしたと言っているが、この来日時に行われたのであろうか。この読売の司会者がアーミテージ氏の講演のときには「場内が満員」になったとわざわざ付け加えていたのを見たとき、私はおかしくてふき出しそうになった。この司会者は「日本では日米同盟の重要性が再認識されてきている」とも述べているが、「誰が」再認識しているか、どれだけの割合の人がそう判断したのかという主体や論拠について説明せずじまいで、ウォルフレン氏への反論の体をなしていないと思った。この司会者が「日米安保の重要性」を喧伝した張本人なのかも知れないと想像して、その点も滑稽であった。この司会者のコメントはただ、ウォルフレン氏が「敵地」で講演しているということをいみじくも視聴者に印象付けるだけであると感じた。

私が何よりも嬉しかったのは、米国がブッシュ政権のときに決定的におかしくなったこと、これ以上米国の支配下にあることの危険性など、ウォルフレン氏の主張が、私がブログで以前から主張してきたことと一致する点である(以下の記事を参照いただきたい)。氏は在日米軍が日本の領土問題・防衛問題に何ら寄与していないということも明言している。日本は米国から独立する決断をしなければならない。アーミテージ氏に会いに行く人たちに騙されてはならないのである。

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追記1: ウォルフレン講演会が12月5日に開催される
この記事を阿修羅掲示板に転載したところ、多くの方々からコメントをいただきました。ありがとうございます。12月5日にウォルフレン氏の講演会が開催されるとの情報が入りましたので、こちらに情報をまとめました

追記2: BS11のINsideOUT(2011年2月16日放送)で小西克哉氏がウォルフレン氏にインタビューしたときの模様が放送されました。非常に興味深い内容です。ブログ記事にしておりますのでご参照ください。(2011年2月18日)
INsideOUT「アメリカとともに沈みゆく自由世界」を見て ~対米従属派とともに沈みゆく日本~

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13 Responses to ウォルフレン教授の日本人へのメッセージ: 米国の変質と日米関係について(最新講演より)

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